基礎資料「幼稚園教要領」からの抜粋
(文字の大きさ、書体、下線は山崎による)
幼稚園教育要領
(平成29年3月 文部科学省)
目次
第1章 総則
第1 幼稚園教育の基本
第2 幼稚園教育において育みたい資質・能力及び「幼児期の終わりまでに育ってほしい姿」
第3 教育課程の役割と編成等
第4 指導計画の作成と幼児理解に基づいた評価
第5 特別な配慮を必要とする幼児への指導
第6 幼稚園運営上の留意事項
第7 教育課程に係る教育時間終了後等に行う教育活動など
第2章 ねらい及び内容
健康
人間関係
環境
言葉
表現
第3章 教育課程に係る教育時間の終了後等に行う教育活動などの留意事項
前文
教育は,教育基本法第1条に定めるとおり、人格の完成を目指し,平和で民主的な国家及び社会の形成者として必要な資質を備えた心身ともに健康な国民の育成を期すという目的のもと,同法第2条に掲げる次の目標を達成するよう行われなければならない。
1 幅広い知識と教養を身に付け,真理を求める態度を養い,豊かな情操と道徳心を培うとともに,健やかな身体を養うこと。
2 個人の価値を尊重して,その能力を伸ばし,創造性を培い,自主及び自律の精神を養うとともに,職業及び生活との関連を重視し,勤労を重んずる態 度を養うこと。
3 正義と責任,男女の平等,自他の敬愛と協力を重んずるとともに,公共の精神に基づき,主体的に社会の形成に参画し,その発展に寄与する態度を養うこと。
4 生命を尊び,自然を大切にし,環境の保全に寄与する態度を養うこと。
5 伝統と文化を尊重し,それらをはぐくんできた我が国と郷土を愛するとともに,他国を尊重し,国際社会の平和と発展に寄与する態度を養うこと。
また,幼児期の教育については,同法第11条に掲げるとおり,生涯にわたる人格形成の基礎を培う重要なものであることにかんがみ,国及び地方公共団体は,幼児の健やかな成長に資する良好な環境の整備その他適当な方法によって,その振興に努めなければならないこととされている。
これからの幼稚園には,学校教育の始まりとして,こうした教育の目的及び目標の達成を目指しつつ,一人一人の幼児が,将来,自分のよさや可能性を認識するとともに,あらゆる他者を価値のある存在として尊重し,多様な人々と協働しながら様々な社会的変化を乗り越え,豊かな人生を切り拓き,持続可能な社会の創り手となることができるようにするための基礎を培うことが求められる。このために必要な教育の在り方を具体化するのが,各幼稚園において教育の内容等を 組織的かつ計画的に組み立てた教育課程である。
教育課程を通して,これからの時代に求められる教育を実現していくために は,よりよい学校教育を通してよりよい社会を創るという理念を学校と社会とが 共有し,それぞれの幼稚園において,幼児期にふさわしい生活をどのように展開し,どのような資質・能力を育むようにするのかを教育課程において明確にしながら,社会との連携及び協働によりその実現を図っていくという,社会に開かれた教育課程の実現が重要となる。
幼稚園教育要領とは,こうした理念の実現に向けて必要となる教育課程の基準を大綱的に定めるものである。幼稚園教育要領が果たす役割の一つは,公の性質を有する幼稚園における教育水準を全国的に確保することである。また,各幼稚園がその特色を生かして創意工夫を重ね,長年にわたり積み重ねられてきた教育 実践や学術研究の蓄積を生かしながら,幼児や地域の現状や課題を捉え,家庭や 地域社会と協力して,幼稚園教育要領を踏まえた教育活動の更なる充実を図っていくことも重要である。
幼児の自発的な活動としての遊びを生み出すために必要な環境を整え,一人一人の資質・能力を育んでいくことは,教職員をはじめとする幼稚園関係者はもとより,家庭や地域の人々も含め,様々な立場から幼児や幼稚園に関わる全ての大人に期待される役割である。家庭との緊密な連携の下,小学校以降の教育や生涯にわたる学習とのつながりを見通しながら,幼児の自発的な活動としての遊びを通しての総合的な指導をする際に広く活用されるものとなることを期待して,ここに幼稚園教育要領を定める。
第1章 総 則
第1 幼稚園教育の基本
幼児期の教育は,生涯にわたる人格形成の基礎を培う重要なものであり,幼稚園教育は,学校教育法に規定する目的及び目標を達成するため,幼児期の特性を踏まえ,環境を通して行うものであることを基本とする。
このため教師は,幼児との信頼関係を十分に築き,幼児が身近な環境に主体的に関わり,環境との関わり方や意味に気付き,これらを取り込もうとして,試行錯誤したり,考えたりするようになる幼児期の教育における見方・考え方を生かし,幼児と共によりよい教育環境を創造するように努めるものとする。これらを踏まえ,次に示す事項を重視して教育を行わなければならない。
1 幼児は安定した情緒の下で自己を十分に発揮することにより発達に必要な 体験を得ていくものであることを考慮して,幼児の主体的な活動を促し,幼児期にふさわしい生活が展開されるようにすること。
2 幼児の自発的な活動としての遊びは,心身の調和のとれた発達の基礎を培う重要な学習であることを考慮して,遊びを通しての指導を中心として第2章に示すねらいかが総合的に達成されるようにすること。
3 幼児の発達は,心身の諸側面が相互に関連し合い,多様な経過をたどって成し遂げられていくものであること,また,幼児の生活経験がそれぞれ異なることなどを考慮して,幼児一人一人の特性に応じ,発達の課題に即した指導を行うようにすること。
その際,教師は,幼児の主体的な活動が確保されるよう幼児一人一人の行動の理解と予想に基づき,計画的に環境を構成しなければならない。この場合において,教師は,幼児と人やものとの関わりが重要であることを踏まえ,教材を工夫し,物的・空間的環境を構成しなければならない。また,幼児一人一人の活動の場面に応じて,様々な役割を果たし,その活動を豊かにしなければならない。
第2 幼稚園教育において育みたい資質・能力及び「幼児期の終わりまでに育ってほしい姿」
1 幼稚園においては,生きる力の基礎を育むため,この章の第1に示す幼稚園教育の基本を踏まえ,次に掲げる資質・能力を一体的に育むよう努めるものとする。
(1)豊かな体験を通じて,感じたり,気付いたり,分かったり,できるようになったりする「知識及び技能の基礎」
(2) 気付いたことや,できるようになったことなどを使い,考えたり,試したり,工夫したり,表現したりする「思考力、判断力、表現力等の基礎」
(3)心情,意欲,態度が育つ中で,よりよい生活を営もうとする「学びに向かう力、人間性等」
2 1に示す資質・能力は,第2章に示すねらい及び内容に基づく活動全体によって育むものである。
3 次に示す「幼児期の終わりまでに育ってほしい姿」は,第2章に示すねらい及び内容に基づく活動全体を通して資質・能力が育まれている幼児の幼稚園修了時の具体的な姿であり,教師が指導を行う際に考慮するものである。
(1)健康な心と体
幼稚園生活の中で,充実感をもって自分のやりたいことに向かって心と 体を十分に働かせ,見通しをもって行動し,自ら健康で安全な生活をつくり出すようになる。
(2)自立心
身近な環境に主体的に関わり様々な活動を楽しむ中で,しなければならないことを自覚し,自分の力で行うために考えたり,工夫したりしながら,諦めずにやり遂げることで達成感を味わい,自信をもって行動するようになる。
(3)協同性
友達と関わる中で,互いの思いや考えなどを共有し,共通の目的の実現に向けて,考えたり,工夫したり,協力したりし,充実感をもってやり遂げるようになる。
(4)道徳性・規範意識の芽生え
友達と様々な体験を重ねる中で,してよいことや悪いことが分かり,自分の行動を振り返ったり,友達の気持ちに共感したりし,相手の立場に立って行動するようになる。また,きまりを守る必要性が分かり,自分の気持ちを調整し,友達と折り合いを付けながら,きまりをつくったり,守ったりするようになる。
(5)社会生活との関わり
家族を大切にしようとする気持ちをもつとともに,地域の身近な人と触れ合う中で,人との様々な関わり方に気付き,相手の気持ちを考えて関わり,自分が役に立つ喜びを感じ,地域に親しみをもつようになる。また, 幼稚園内外の様々な環境に関わる中で,遊びや生活に必要な情報を取り入れ,情報に基づき判断したり,情報を伝え合ったり,活用したりするなど,情報を役立てながら活動するようになるとともに,公共の施設を大切に利用するなどして,社会とのつながりなどを意識するようになる。
(6)思考力の芽生え
身近な事象に積極的に関わる中でで,物の性質や仕組みなどを感じ取ったり,気付いたりし,考えたり,予想したり,工夫したりするなど,多様な 関わりを楽しむようになる。また,友達の様々な考えに触れる中で,自分と異なる考えがあることに気付き,自ら判断したり,考え直したりするなど,新しい考えを生み出す喜びを味わいながら,自分の考えをよりよいものにするようになる。
(7)自然との関わり・生命尊重
自然に触れて感動する体験を通して,自然の変化などを感じ取り,好奇心や探究心をもって考え言葉などで表現しながら,身近な事象への関心が高まるとともに,自然への愛情や畏敬の念をもつようになる。また,身近 な動植物に心を動かされる中で,生命の不思議さや尊さに気付き,身近な 動植物への接し方を考え,命あるものとしていたわり,大切にする気持ち をもって関わるようになる。
(8)数量や図形,標識や文字などへの関心・感覚
遊びや生活の中で,数量や図形,標識や文字などに親しむ体験を重ねたり,標識や文字の役割に気付いたりし,自らの必要感に基づきこれらを活用し,興味や関心,感覚をもつようになる。
(9) 言葉による伝え合い
先生や友達と心を通わせる中で,絵本や物語などに親しみながら,豊か な言葉や表現を身に付け,経験したことや考えたことなどを言葉で伝えたり,相手の話を注意して聞いたりし,言葉による伝え合いを楽しむようになる。
(10)豊かな感性と表現
心を動かす出来事などに触れ感性を働かせる中で,様々な素材の特徴や表現の仕方などに気付き,感じたことや考えたことを自分で表現したり, 友達同士で表現する過程を楽しんだりし,表現する喜びを味わい,意欲をもつようになる。
(中略)
第2章 ねらい及び内容
この章に示すねらいは,幼稚園教育において育みたい資質・能力を幼児の生活 する姿から捉えたものであり,内容は,ねらいを達成するために指導する事項である。各領域は,これらを幼児の発達の側面から,心身の健康に関する領域「健康」,人との関わりに関する領域「人間関係」,身近な環境との関わりに関する領域「環境」,言葉の獲得に関する領域「言葉」及び感性と表現に関する領域「表現」としてまとめ,示したものである。内容の取扱いは,幼児の発達を踏まえた指導を行うに当たって留意すべき事項である。
各領域に示すねらいは,幼稚園における生活の全体を通じ,幼児が様々な体験を積み重ねる中で相互に関連をもちながら次第に達成に向かうものであること, 内容は,幼児が環境に関わって展開する具体的な活動を通して総合的に指導されるものであることに留意しなければならない。
また,「幼児期の終わりまでに育ってほしい姿」が,ねらい及び内容に基づく活動全体を通して資質・能力が育まれている幼児の幼稚園修了時の具体的な姿であることを踏まえ,指導を行う際に考慮するものとする。
なお,特に必要な場合には,各領域に示すねらいの趣旨に基づいて適切な,具体的な内容を工夫し,それを加えても差し支えないが,その場合には,それが第 1章の第1に示す幼稚園教育の基本を逸脱しないよう慎重に配慮する必要がある。