「子どものやる気を引き出すコーチング」

 教育学科が大事にしている教育の方法として「学習コーチング」というものがあります。その内容を紹介します。高等学校の出前授業での講演内容を掲載しました。

 (これは2016年現在のものです。山谷 敬三郎先生は現在、北翔大学 学長です。)

 

講演「子どものやる気を引き出すコーチング」(要旨)

 北翔大学大学院生涯学習学研究科長 

山谷 敬三郎

 

1 ドロシー・ローノルトの詩

みなさん、こんにちは。北翔大学の山谷と申します。今日は、コーチングについてお話をさせていただきます。

最初に、ドロシー・ローノルトという児童文学者の「こども」という詩を紹介します。今日は、この詩だけでも知っていただければ、こどもへの接し方が変わるのではないかと思います。

 

<「子ども」 作:ドロシー・ローノルト>

 

批判ばかりされた子どもは 非難することを覚える

殴られて大きくなった子どもは 力に頼ることを覚える

笑いものにされた子どもは ものを言わずにいることを覚える

皮肉にさらされた子どもは 鈍い良心の持ち主となる

 

しかし、

激励を受けた子どもは 自信を覚える

寛容に出会った子どもは 忍耐を覚える

賞賛を受けた子どもは 評価することを覚える

フェアプレーを経験した子どもは 公正さを覚える

友情を知る子どもは 親切を覚える

安心を経験した子どもは 信頼を覚える

可愛がられ抱きしめられた子どもは 世界中の愛情を感じ取ることを覚える

 

この詩は、コーチングの考え方と全く同じです。補足資料に「親を同一視の対象とできない子どもたち」と書いてありますが、「親を同一視」というのは、親をモデルにするということです。「同一視」という言葉は、フロイトが使ったのですが、親の無意識の行動が、知らず知らずに子どもたちに影響を及ぼしているということです。

 

2 コーチングとは

コーチングは、最近、にわかに注目され始めましたが、2000年前後に日本に導入されています。

みなさんは、答えを先に言ったり、指示命令型のコミュニケーションで子育てをしていませんか。それはそれで大切な場合もありますが、指示命令型のコミュニケーションばかりではなく、問答型のコミュニケーションを上手に使うというのが、コーチングの極意です。

「思考」とは、心理学では、頭の中で「問いと答えを連続させる営み」と説明します。例えば、「今日の夕食はどうしようかな?」「昨日の残り物ですませようか?」「いや、それじゃわびしいから、冷蔵庫のあまり物も使おうかな?」「せっかくの土曜日だし外食もいいかな?」というように、一つの問いを立てて、その答えを探す。その答えから、また次の問いを導いていく。その「問いと答えの連続」が、「思考」「考える」ということです。

答えを言うばかりではなく、子どもたちに問いを持たせる問答型コミュニケーションが、子どもに考える力をつけさせることにつながります。教師は問いの専門家です。子どもたちの代わりに、授業の中で発問という形式で子どもたちに考えさせます。問いを持つことができると、自分なりの答えを得ようとして考え始めます。つまり、「やる気や意欲」にもつながります。いつも指示命令をされていると、「指示待ち人間」になってしまいます。

スポーツでコーチングを採用したのは、イチローを育てた仰木監督です。コーチングによる指導を受けた選手は、そうではない選手より、スランプから脱出する期間が短くてすんだと言われています。指示命令型のコーチは、「こうしなさい」「ああしなさい」と選手に伝えます。選手は、コーチから言われたことだけを忠実にやろうとします。結果が出ないと、「どうしたら良いでしょうか」とまた答えを求めます。しかし、仰木監督は、イチロー自身にメニューや練習を考えさせて、実行できるように支援したそうです。

コーチングの極意は、指示命令型から問答型のコミュニケーションに変えること、つまり、問いかけることで、その人の潜在的な可能性を最大限に発揮できるように支援することです。ソクラテスは約2000年前に「産婆法」と表現しましたが、これが、現代では「コーチング」という名前で、さまざまな分野で活用され始めています。

 

3 コーチングの全体的把握

人間は環境が整うと一生懸命がんばる存在であるという「自己実現の人間観」が、コーチングの基本的な哲学です。また、相手を引っ張り上げるのではなく、「どう支えるか」を考えます。子どもは、自分から動こうとします。私たちは「支える」という姿勢で接する。つまり、子どもたちを信頼することです。そして、できる場面では一緒にやる。単に手を貸すのではなく、「一緒に計画を立てる」「行動する」などの協働関係を持つということです。

次に、問題解決の過程を大切にすることがコーチングでは求められます。これを「GROWモデル」とか、「コーチング・フロー」と言います。夏休みの計画表づくりを想像してください。「朝起きて顔を洗い、午前中3時間勉強して、お昼ご飯食べて午後5時間勉強して、夕飯の後に3時間勉強する。それを25日間続ける」計画を作成しましたが、休みが終わって何もできなかった自分を思い出します。コーチング・フローは、実現可能な問題解決の計画のことです。

まず、現在の状況を明確化します。そして、望ましい状態、目標と言ってもいいですが、それを明確にします。近い目標ならやる気を起こしますが、遠い目標は、なかなか自分の中に位置付けることができません。例えば、「1年間で1000ページの問題集をやる」というよりも、「13ページずつやる」という方が、やる気が起きます。大きな目標でなくて良いわけです。現在の状況と望ましい状態を親子で共有したら、その間にあるギャップを生みだしている理由と背景を確認して、どう取り組めばよいか確認します。夏休みの計画表で言えば、行動計画を立てて実践する。無理な計画だったら、子どもの行動を振り返りながら修正する。子どもの話を聞いて応援するだけではなく、実際に何をやるのかを考えるということです。「現状はどうなのか」「どういう形にしたいのか」「その間の解決すべき課題は何か」「こんなふうにやってみようか」ということを整理していくことがコーチング・フローと言われるものです。

 

4 コーチングのコア・スキル

コーチングの具体的なスキルをまとめると5つに整理することができます。

1つ目は、「質問」のスキルです。思考を促す「問いかけ」を工夫することです。「なぜ?」という聞き方はとても大切ですが、失敗した子どもにとっては、責められている気持ちになります。「何があったの?」に変えるだけで、そうはなりません。そういう問いをうまく使いましょうということです。

2つ目は、「傾聴」のスキルです。子どもの話を受け止めることです。まず「丁寧に聞く」次に「そうだね」とか「分かるよ」とか、あいづちを打ちながら聞く。そして、「子どもの心を理解するように聞く」という姿勢です。

3つ目は、「直観」のスキルです。相手の立場に立って、子どもの感覚を大切にする関わりで、「子どもたちの受け止め方を共有する」スキルです。

4つ目は、「確認」のスキルです。過去の成功例を思い出させ、自信を持たせるために確認します。

最後に、「自己管理」のスキルです。これは、「親がどうやって自分の存在を消すか」「子どもが独り立ちした時に、自分の親はこんなふうに受け止めてくれた」ということが心に残るように、語りかけができるかどうかがポイントです。

 

①質問のスキル

最初の「質問」のスキルですが、「拡大質問」と「特定質問」を上手に使い分けることです。無口な子どもや初対面の人には、「一問一答式やyesnoで答える」質問も必要ですが、これだけだと本音を聞けません。答えがたくさんある「拡大質問」つまり、「5W1H」を交えながらコミュニケーションを取るということです。私が経験した例で言うと、面接でなかなか話をしてくれない子どもに、「何か動物を飼っているの?」と言ったら、首を縦に振りました。「ねこ?」と聞いたら、「うん」と言う。その次に「じゃあ犬は?」と聞いた失敗の経験が思い出されます。「猫の名前や種類」をたずねる特定質問をすればつなげていける。自分の余裕のなさが、コミュニケーションを限定してしまったんです。拡大質問と特定質問を上手に使い分けると、コミュニケーションの幅も広がりますし、その子をきちんと理解することにつながります。

2つ目に、肯定質問と否定質問です。私たちは「どうしてわからないの?」というような、否定質問を無意識に使っています。そうではなく、「何からならできるのか?」という肯定質問に切り替える。すると、理解できるところから指導の手立てを編み出すことができます。

3つ目は、未来質問と過去質問です。目標を実現するとこんな素敵なことが広がっているというイメージを持たせるために未来質問を使うと、子どもたちはイメージを持ち、もっと頑張ろうという気持ちになれます。ところが、私たちは、過去の失敗を振り返り、自信を失わせるような語りかけを結構しています。これも、上手な使い分けを意識していただければと思います。確かに、過去の失敗を反省しなければならない場合はありますが、「できるだけ前に進む」「現状をどう打開するのか」を中心に支援すると考えてもらえれば良いと思います。

 

②傾聴のスキル

次に、傾聴のスキルです。ここでも3つのレベルで整理します。

1つ目の「聞く」は、評価せずに聞く。耳を傾ける、耳を開くというイメージです。「耳」という字が入っています。

2つ目の「訊く」は、訊ねるつもりで訊くことです。あいづちとか、「なるほど」とか「そうだね」という明確化のことばを発する。「言(ごんべん)」が入っています。

3つ目の「聴く」には、「心」が入っています。「感情と思考と意欲」という「心を理解する3つの窓口」を手がかりにして理解する。例えば、カウンセリングの最初の段階では、相談を受ける人は本当に困って、しかも緊張して相談に来ます。そういう感情を、できる限りその人の立場に立って忠実に理解するように努めます。ただ、それだけでは解決策を生み出せませんので、こちらの問いにどういう答えを返すか、逆にこちらにどんな問いを投げかけるか、それによって、その人の考え方、思考を理解するように努めます。もうひとつは、意欲です。意欲とは、「意思と欲求」が合体したものです。例えば、「今、私はのどが渇いてきています。」これが欲求です。目の前にお茶があります。飲みたいです。しかし、ここでゆっくりお茶を飲む時間はないし、皆さんへの心象も悪くなるから「我慢しよう。」という意思が働いて飲まないわけです。私たちは、欲求のままに行動するのではなく、意思を働かせて行動を決めています。その人の意思や欲求を理解することで、その人の心を理解することにつながります。

 

③直観のスキル

次に、直観のスキルです。直観とは、「感覚的印象」のことです。例えば、虹を見たら「キレイだなあ」と感じます。そこから子どもは、「虹ってどうしてできるの?」と、学習する内容を得ます。こうした感覚的印象を、直観といいます。「おかしいな?」や「ビックリした!」でもいいです。年齢上がるにつれて、徐々に直観を表だって口に出して質問したり、こだわったりしなくなりますが、子どもたちは、私たちが普段見過ごしていることに、とても敏感に反応しています。そうした直観を上手にとり上げるということです。夕食の準備中で「てんぷらを揚げている」時に、「お母さん、これなあに?」と聞いてきても、てんぷらの火を消してまで子どもの話題に乗ることはなかなかしないと思います。しかし、子どもの感覚的印象を大切にした関わり方をしてあげると「子どもに考えさせる」、つまり、「問いを持ち主体的な学習態度を形成させること」に結びつきます。また、子ども自身の自己理解を深める問いかけを活用してほしいということです。すぐに答えを言わないということです。一生懸命になって聞いてあげる姿勢を、大切にしてほしいと思います。特に、男性の方は奥さんが美容院から帰ってきても無関心ではいけません。逆に、お父さんが一生懸命身だしなみを整えているのに、奥さんが知らないふりをしていたら、お互いの関心が薄れていることの証拠です。お互いが気づくことが大切です。直観のスキルは日常生活でも活用したいところです。

 

④確認のスキル

次に確認のスキルです。その人にとって大切なことを確認してあげることです。未来の確認、目標の確認、そして現在の確認です。特に、過去の確認では、過去の失敗をくどくど言うのではなく、「あの時、こんなふうにがんばれたよね」と言えば、自信につながります。私たちには似たような体験があることでも、子どもたちにはほとんどが初めての体験ですから、どう自信をもたせるかを考えなければいけません。「子どもの中にある可能性を信じさせること」「君ならできる」「やり遂げられる可能性がある」ということを、言葉でフィードバックすることが、自信につながります。そのためには、過去の成功体験を導き出すことです。これができるのは、どちらかというと父親よりも、やはり身近にいる母親でしょう。そして、学校の先生の言葉がけが重要です。子どもたちは少しずつ、自分の中にある可能性を信じて自信を持つことにつながります。

 

⑤自己管理のスキル

最後に、自己管理のスキルです。これは、子どももそうですが、特に保護者の皆さん方に身につけていただきたいスキルです。

私たちは、頭の中でいくつかのことが重なると、子どもの話をなかなか真剣に聞けません。頭の中を整理することが必要です。気になっていることがあったら、いったん紙にメモするなどです。実は、明日は大学院の試験があります。会場の確認のために、急いで帰らないといけません。5時半までに大学に戻らなければなりません。帯広から大学まで3時間はかかりますから、「5時半までには無理だとはあきらめよう。」でも、6時に着いた時に、「待っている人にきちんと謝ろう」と頭の中で考えると安心して運転して帰れます。気になっていることを、いったん頭から脇に置くということです。

2つ目に、感情のコントロールです。感情を抑圧したり、頭の中で同じことを考えている時は子どもの話は真剣に聞けません。できれば、夫婦間で、あるいは同僚や友人に、自分の感情をいったん言葉にして表すだけで、気持ちが少し楽になります。PTSDという、大きなショックを受けた人が、自分からつらい思い出を口に出せるようになると、心の傷が少し回復した印とも言われます。自分の感情を他人に伝えると心の安定につながります。そういう形で自分の感情をある程度セーブすることが、コーチや親、教師に求められます。

最後に、体調管理と聴く姿勢です。子どもたちの目を見ながら聴くのですが、凝視するようなコワイ目つきではなく、優しく見ながら話を聞くことです。鏡を見ながら自分なりに練習をしてみてください。お互いに目を見るとなると、どうしても緊張してコワイ目つきで見てしまいます。普段、練習をしていただけると良いと思います。

 

5 コーチングの活用

日常的な場面の中で、具体的にどのようにコーチングを活用していくのかは、補足資料にも具体的に説明してありますので、後ほどご覧いただきたいと思います。簡単に項目のみを紹介します。

1つ目に、「活動や努力を認めてあげる」ことです。身近な私たちが、その子の能力や努力をきちんと見るような関わり方をするということです。

2つ目に、「応答性ある環境にしてあげる」ことです。子どもたちが何かを聞いてきたら、聞きたい主題だけは、確実に聞いてあげてください。例えば、学校の先生方が打ち合わせの時間が迫っている時に、「先生、相談があるんですけど」と聞いてきたときは、「ごめん、会議あるから後にして」と対応してしまうと、いじめの発見に遅れをとることにもなります。「どうした?」と、テーマだけは聞いてあげてください。「算数の問題の分からないところがあって」と聞いてきたときは、「そうか、これから会議だから、いついつ、もう一回話するからおいで」と対応してほしいのです。あるいは、お母さん方がてんぷら揚げています。子どもが「お母さん、ちょっと話したいんだ」と聞いてきたときは、「今ダメ、てんぷら」と言って、ズバッと切らないでください。「どうしたの?」と主題だけは聞いてあげてください。「今日、算数の授業で分からないところがあったの」と言ったときは、「今、てんぷらが大事」でいいです。「いじめがあった」と訴えた時は、てんぷらの火をいったん消して聞いてください。きちんと分けながら聞くことが大切です。私の失敗談ですが、息子が小学生の時に、急にかしこまって「父、ショチョウって何?」と。私は応答性のある環境にしようと思って、「いいか、世の中には会社というものがある。一番偉い人を社長という。会社の次に、だいたい支社を置くんだ。支社の一番偉い人のことを支社長という。支社にはだいたい営業所というのがあって、そこで一番偉い人のことを所長という。」と、長く説明したんです。息子は、すくっと立って、蔑むような目つきをして、台所に行ったんです。母親が「それはね、女の子が赤ちゃん産めるようになった最初のしるしよ。」と応えました。冷静に考えたら、小学校5年生の男の子が、営業所長のことをきくわけがありません。でも良かったのは、「そういうことは母にききなさい」と、たらい回ししなかったことです。もしくは「そういうことに興味を持つのはまだ早い」と拒否するとか。人格に不安を持たせるような拒否の仕方をしたら、子どもはもう二度と、興味を持ったことを聞いてきません。隠れて自分で解消しようとします。誠実に答えることです。分からなければ、一緒に調べてみようでいいんです。そうした姿勢を見せることが大切です。

 3つ目に、言葉遣いを大切にすることです。言葉は思考と関係します。丁寧な言葉、長い言葉をぜひ使ってください。

4つ目に、その子の夢や希望をその子の個性と結びつけて応援してあげれば、その子は絶対に不安に立ち向かっていきます。「ケーキ屋やりたい」といった子どもに、「お菓子作りがとても上手だから絶対に素敵なケーキ屋さんになれるよ」と応援してあげるということです。

最後に、子どもたちの思いや気持ちを汲み取ることです。子どもたちの思いや気持ちを汲み取って接してあげると「自分のことを理解してくれている人が自分にはいるんだ」という思いが心に生まれます。これは他人に対する「優しさや思いやりの心」を育むことに結びつきます。

 

ここまで、早口でお話しして申し訳ありませんでした。今日は、コーチングの基本を理解していただければと思ってお話をさせていただきました。また機会がありましたら、詳しく説明したいと思います。ご静聴に感謝申し上げます。どうもありがとうございました。